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視点 :綾人
CP :戸田→恭也、綾人→恭也
進行 :戸田シナリオ4日目【ちょっと時間を下さい】ルート通過後推奨


戸田のキャライメージを壊したくない方には断固おススメできません。綾人もちょっと…!



さすがに普段から歌って踊るアイドル様たち。
いくら若手若手と言われていても、芸人がそれに張り合ってしまえば、当然の如くへばる。
もとからあまり体力のない相方なんか、もう、今日は使い物にならないんじゃないかと思う。

次の仕事の入り時間までに少し余裕があるからか、佐竹さんの運転はいつもより幾分か丁重だった。
疲れた俺たちにとってはこれ以上なく気持ちのいい揺り籠だ。
あーあ、なんだかよく眠れそう。
ここ最近、寝不足気味だしなぁ…嫌な夢ばかり立て続けに見るから、朝になると逆に疲れていたこともあった。
だけど今その元凶は、すぐ隣、手の届く範囲に座っている。
「ふあぁ~あ…」
まったく、人の気も知らないで。平和そうなあくびが聞こえると、ますます脱力感に襲われた。

「あ、戸田くん…」
………………んんんあ?
眠りかけていた耳が飛び起きた。
ああくそ、せっかく気持ちよく寝られそうだったのに。何でこのタイミングで戸田なんだ。
メールを打つ気配を感じながら寝ているふりを続けるが、もう気になってしまって眠るどころではない。
本当にこの企画は最悪だ、だから最初から嫌だったんだ…はぁー。

そもそも、相方を変えて何が楽しいんだ、と言いたい。
いや、単にテレビで見ている側だった頃の俺には、確かに楽しみ以外何もなかったが。
今こうして芸人になった俺の相方は、恭也だ。たった五日といえど、誰が好き好んで他人に預けたりしたいものか。
正直に言ってしまえば、仕事はもちろんそれ以外だって毎日一日中一緒にいたいくらいなのに。
いや待てよ、究極を言えば、誰もいない場所で二人きりでらんららんらララ………

「佐竹さん、今日って何時頃終わるんだっけ?」
はっ!いかんいかん、危うくファンシーな妄想から帰ってこられなくなるところだった。
「今日は多分、18時過ぎくらいかな」
ともかく、だ。俺の大事な恭也がこの企画のせいで危険にさらされている。
しかも!何より問題なのは、その恭也の相方が、
「佐竹さん。明日の仙台、戸田くんと一緒に前乗りさせてもらえませんか?」
そう、戸田……はああああああ!?なんだって!何言ってるんだ恭也ー!!
「じゃあ事務所に電話してみるから」
ちょ、佐竹さんまで何話進めてくれちゃってんの!?
「…俺も行く。佐竹さん、チケット二枚」
「うわっ、綾人起きてたの?」
誰のせいだ、誰の。お前は、戸田がどれだけ危険なヤツか分かってないんだ!
あいつはガチでヤバい!いやマジで!
恭也はよく、戸田といると癒されると言っているが、それは本当にそうなんだろうと思う。
確かにマイナスイオンが出ているからだ。ただし戸田からではない。戸田が持っている、携帯型のイオン発生器からだ。
いっそ清々しいまでに姑息。
「平井は明日の始発決定なんだ」
「あはははは、綾人残念。かーわいそー」
「……だめだ。お前も始発にしとけ」
「はあ?やだよ、なんで?」
あーあ、これだから嫌だねぇ、まったく。自分の可愛さを分かっていないヤツは。
思い切り『断固反対』と顔に書いて念を送ると、恭也は気まずそうな顔を逸らして考え込む。
この頑固親父め、という心の声がハッキリと聞こえてきた。

―~♪~♪♪
均衡を破る能天気な着信音。恭也の携帯だ。
「もしもし。…うん、移動中だから。…えっと…、」
隠しているつもりなのだろうが、気まずそうな話し方から、嫌でも相手の察しはつく。
今のやりとりが全部あいつの計算通りなんじゃないかと疑いたくなるタイミングだ。
「それ、戸田か?」
「そうだけど…」
「代わってくれ」
「ええ?ちょっ…!」
「もしもし、戸田か?悪い、俺だ、平井」
携帯を抜き取られたままの姿勢で固まる恭也。
いつもだったら、その破壊力抜群の間抜け面に、思う存分打ちのめされているところなのに。
『こんにちは、平井くん』
携帯からは、虫唾の走るいいお声。視覚と聴覚のギャップに目まいがする。
あまりに頭が働かないので、恭也と逆の方を向いて喋ることにした。
「おう、お疲れ…」
秋葉くんから聞いたと思うけど、』
「明日の仙台だろ。お前、俺がそんなこと許すと思うと思うのか?」
『頼もしいねぇ』
「分かってんなら話が早い」
秋葉くんは何て言ってるの?僕と行きたいみたいだったけど?』
「…それは、」
『本人の意思をないがしろにして、君の反対を押し通す権利があるのかな。相方だからって、あんまりな扱いじゃない?』
「その手には乗らねぇよ。俺には、何と言われようと恭也を守る責任がある」
『わお☆さすが正義のヒーロー』
「……お前、今すんげー馬鹿にしただろ」
『それはさておき。うーん、どうしたら秋葉くんを連れて行ってもいい?』
「何しても無理。妙な真似したら、お前の正体洗いざらい片っ端から恭也にバラすからな」
『僕がどんなに聖人君子かって?』
「腹ん中ドス黒い悪魔の親玉みたいのが聖人君子ってんなら、そうかもな」
『ま、僕は構わないけどね。可哀そうに、秋葉くんはショックだろうなぁ。相方が急にそんな嘘を言い出したら』
「おまっ、恭也が俺よりお前を信じるとでも?」
『試してみたらいいじゃない。
相方がトチ狂うか、大事な親友を失うか、どちらにしても秋葉くんは悲しむと思うけど、それが君のお望みならね』
「…お前本当に忌々しいな」
『ありがとう。そろそろ秋葉くんを僕の嫁にくれる気になった?』
「なるかっ!そもそも明日の話だろうが!」
『残念。それなら僕も秋葉くんに言っちゃうけどいい?』
「な、何をだよ。俺にはお前みたいにやましいことなんて…」
『そう?じゃあ言ってもいいよね、…この前楽屋で、君が秋葉くんの寝顔撮ってたこと』
「……はあ?何言って、」
『たまたま挨拶に寄ったら、寝ている秋葉くんに携帯向けてるところだったんだ。
いや、僕も最初は何かの番組でネタにでもするのかと思ったよ。変な顔で寝てるとか、変な寝言言ってるとか』
「そ、そうだそうだ、思い出した。ちょっと頼まれてて撮ったんだった」
『あんなに何日も?しかもその時の君ときたら…変態のお手本みたいな顔をしていたよ。
仕事だなんてとんでもない。忌々しいのは君のほうさ』
「…ま、まあ言いたきゃ言えよ。どうせそんな話信じないからな」
『まさか、僕がその現場に遭遇して、ただ引っこんで帰ったとでも思った?』
「どういう意味だよ」
秋葉くんの寝顔に夢中になっていて気付かなかっただろうけど、そんな君の姿をばっちり撮らせてもらってあるよ。
秋葉くんの寝顔も、崩れた顔の君もばっちりね』
「…マジかよ」
『証拠があれば、いくら秋葉くんが君に懐いているっていっても、信じないわけにいかないでしょ』
「………」
『君には耐えられないよね、秋葉くんに、軽蔑、されるなんて』
「…くそっ」
『どうやら気が変わったみたいで嬉しいよ』
「今回だけだ、次は絶対ねぇぞ。…あと、三つ条件がある」
『多っ。はぁ…一応聞こうか、保護者様の意見だしね』
「…………消せ」
『え、なに?聞こえなーい』
「消せっつうの!その写真!一枚残らず!」
『仕方ないなぁ。今度会った時に目の前で消してあげるよ。自分でも見たいでしょ、どんなに間抜けか』
「バックアップ取るなよ」
『まさか。君の顔を量産するなんて趣味の悪いこと。それで次は?』
「明日の営業、壬生工船も一緒だ」
『分かってる、赤間でしょ。僕も前から危ないと思ってたんだ。ちゃんと警戒してるよ』
「まあその点で言えば、お前なら安心かもな…」
『褒め言葉と受け取っておくよ。最後の条件は?』
「ホテルは二部屋取れ。同じ部屋で寝るなんぞ許さん」
『ふふ、言うと思った』
「約束できないなら行かせない」
『はいはい、分かりましたよお父さん。誓って手は出しません』
「本当だな?」
『うん、今日は』
「一生出すな!っていうかお父さんじゃねぇ!」
『もう、分かったってば。条件は以上?』
「ああ。赤間もだけど、こいつ自身も急に何しでかすか分かんねぇから、目離すんじゃねぇぞ」
『それは言われなくても』
「俺が仙台に着いた時に恭也にかすり傷一つでもついてたら、許さねぇからな」
『約束するよ』
「………よろしく、頼む」
不本意だが。物凄くっ不本意だが、窓にぶつけるくらい頭を下げた。今俺が出来る最大限。
恭也のためとあらば、考えるより体が勝手に動いてしまう。
「ほら、代われ」
「え、うん…?もしもし?」
先に車を降りた恭也に、携帯を返す。
はぁ…今戸田と話しただけで軽く二キロくらい痩せた気がする。せっかく安眠できる貴重な時間だったはずが…。
「佐竹さん、手間掛けますけど」
「やっぱそうなるか」
「なんですかそれ」
「いや別に。んじゃ、電話しとくか」
「…お願いします」
こうなる前から分かっていたみたいに、佐竹さんはやたら納得した顔。それにまたどっと疲れを感じて、一足先に車を離れた。

まあ、戸田が鬼で悪魔な危険人物であることは事実だが、恭也が嫌がることだけは絶対にしない。
その一点についてだけは信用できる男だ。
本音を言えばもちろん行かせたくないが、本人も行きたいと言う以上は仕方ない。
「はぁ…俺としたことが、撮られてたことにも気づかないなんて」
思い出したらまたムカついてきた。戸田のヤツ、趣味が悪いにも程がある。
だけど、バタバタと自分を追いかけてくる足音が聞こえてきた途端、顔が勝手に嬉しがってしまうのだから、
俺も人のことは言えないのかもしれない。





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